カテゴリ:刑法( 9 )

無期懲役刑の実態

日弁連ニュースに無期懲役刑の実態についてコラムがありました。

無期懲役というのは,有期懲役が最高30年(刑法14条)ですので,それよりも重い懲役刑なのですが,他の国にみられる終身刑とはまた違います。
終身刑は一生刑務所にいるという刑ですが,日本にはありません。
無期懲役は,終身刑よりは軽い刑です。

一方,日本には,仮釈放という制度があります(刑法28条)。
懲役刑になっても,模範囚など特に改悛の情がある場合は,早期に刑務所から出所できる制度です。具体的には,有期刑の場合は刑の3分の1を目処に,無期刑の場合は10年以上を目処に,仮釈放されます。

だからといって,無期懲役になっても10年で仮釈放がされているかというと,実態はそうではなく,現実には無期懲役受刑者が10年で仮釈放されるのは皆無だそうです。
2007年のデータでは,無期懲役受刑者で仮釈放された人は3名。平均刑務所在所期間は30年だそうです。

日弁連の論調は,無期刑が事実上の終身刑に化していて,人権上問題なのではないかとのことでした。
しかし,事実上の終身刑というのは言い過ぎな気がします。現に仮釈放されている人もいるのですから。
むしろ,日本にはない終身刑を新設し,刑を多種選択できるようにしてゆくべきだとの意見もあり,死刑廃止論も絡んで今後の課題だと思います。
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by ofuna-law-02 | 2008-12-01 01:39 | 刑法

平成20年度新司法試験刑事法第1問

添削を依頼されて,今回,今年の新司法試験の刑事法第1問を解いてみました。

良問ですね。さすが司法試験委員が練りに練って作っただけある。

はっきり言って,論点的には(刑法の解釈論としては)意外と簡単なものしかでていません。
しかし,事実認定(あてはめ)は,私のころの司法修習生レベルまで問うており,旧試験と比較すると,かなり難しいのではないかと。

ロースクールで事例研究(事実の分析)をどれだけ教育しているかが問われてますね。
少なくとも学部生には,論点は書けても,あてはめは難しいはず。
例えば,今回の問題では「強盗の機会」と認められるか,が論点のひとつなのですが,強盗の機会と認めるには,どのようなメルクマールを用いるべきかという立論が必要で,その立論をした上で,積極事情と消極事情を分けつつ,事実を摘示し,かつ,消極事情については,それがあるけれどもどのように考えて結論的に積極的に解するのかをフォローするところまで,あてはめで示さないといけないと思います。
同様のことが,同じように出題された論点である「共謀共同正犯と幇助犯の区別」や「抽象的事実の錯誤の構成要件の重なり合いの範囲」にも求められています。

抽象的規範にとどまらず「メルクマール」を挙げて,あてはめないと点が伸びないと思います。
ずらずらと,脈絡もなく事実を羅列しても,それはダメで,出題者が求めている「事実の摘示」にはならないと思います。

今は法務省から「出題の趣旨」が発表され(私のころはありませんでした),今回も発表されました。
それを読むと,とても詳細かつ丁寧に「出題の趣旨」が書かれているので,受験生の皆さんは,これを熟読して勉強に活かしてほしいと思います。
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by ofuna-law-02 | 2008-12-01 01:26 | 刑法

免許証の偽造

平成15年の司法試験に,「運転免許証の名前の部分に別の名前を書いた紙を貼り付けた」行為について,公文書偽造罪が成立するかという論点が出題されています。

一見して,紙を貼り付けただけなら,偽造には当たらないという印象だったのですが,実は深くて,偽造に当たるとする見解が有力とのこと。

偽造に当たらないという論理は,偽造の程度は一般人が誤認するような程度まで必要で,紙を貼っただけでは,一見して偽造とわかる,すなわち,一般人が誤認しないので,偽造には当たらないと考えます。

一方,偽造に当たるという論理は,偽造は,行使の態様等も考えて実質的に判断するべきだとし,例えば,コピーすれば完全に偽造物となることなどを考えると,紙を貼っただけでも,偽造には当たるのだと考えます。

実務的には偽造否定のほうが強いと思うのは私だけでしょうか。
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by ofuna-law-02 | 2008-11-30 17:06 | 刑法

藤沢で強盗? 窃盗と強盗の区別

先週,通勤の電車で「藤沢の小田急デパートに強盗が入ったらしいよ」という噂を耳にしました。
翌日の新聞に,「藤沢の小田急デパートで,深夜,2億円相当の宝石等が盗まれた。窃盗の容疑で捜査中。」という記事が書いてありました。

強盗と窃盗では全然違うなあと思ったのでしたが,普段同じように使われているのが現実です。その違いは何でしょうか?

窃盗の定義は,「占有者の意思に反し,財物の占有を排除し,自己または第三者の占有に移すこと」です。
これに対し,強盗の定義は,「暴行・脅迫により,相手方の反抗を抑圧し,その意思によらずに財物を自己または第三者の占有に移すこと」を言います。

共通点は,被害者の占有物を,自己または第三者の占有に移すことです。
根本的な違いは,その占有を移す態様の違いであり,強盗の場合は,暴行または脅迫により,相手の反抗を抑圧するのに対し,窃盗の場合は,そうではない点にあります。

例えば,万引きは,窃盗です。
銀行強盗は,窓口の銀行員に対し,「金を出せ」などと脅迫し,その意思を抑圧して,お金を奪取するので,強盗になります。

先の藤沢の小田急デパートの件は,深夜に,デパート内に侵入し,誰もいないなかで,宝石等を持ち去った事件であり,被害者の反抗を抑圧するような暴行・脅迫がなく,単に占有を自分達のもとに移したにすぎないため,窃盗になります。
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by ofuna-law-02 | 2008-11-28 10:37 | 刑法

行為の個数

刑法で,行為の個数(専門的には,構成要件該当性の該当回数)の判断をいかにするかについて,学生から質問がありました。
とかく刑法の司法試験の論文の問題では,行為も抽象的であるため,司法試験受験生には実務のセンスの習得に苦慮するところです。

基本的には,行為は,客観面と主観面から成り立つので,この両面から,行為の個数を判断することとなります。
客観面からは,継続性や機会の同一性,社会的意味の同一性などが基準となります。
主観面からは,ずばり犯意(故意)の1個性を軸に,計画性や動機の同一性などが基準となると思います。

検事の経験からは,やはり犯意(故意)がポイントになっていると思います。
例えば,人を殺すつもりで同一機会に10回ナイフで刺したような場合は,10回のうち1回1回ごとに1個の行為とみるのではなく,10回で1個の行為と判断します。なぜなら,人を殺すという犯意(故意)は,1つで,それに支配されている個別所為の集合体であって,全体として行為は1個だと考えるからです。
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by ofuna-law-02 | 2008-11-28 10:28 | 刑法

事実の錯誤

Xは,日頃恨みに思っていたAを殺そうとして,ピストルでAを狙撃したところ,弾は外れて近くを歩いていたBに命中し,Bは死亡した。

上記事例で,Xに何罪が成立するでしょうか。

常識的に考えると,
Aに対しては,殺そうと思ったのに殺せなかったため,殺人未遂罪
Bに対しては,殺すつもりはなかったのに,誤って死亡させたため,過失致死罪
となろうかと思います。

しかし,判例・通説の考え方は違います。
Aに対する殺人未遂罪とBに対する殺人罪の成立を認めます。

判例・通説は,Bに対する殺人の故意を認めるため,このような結論になります。
そもそも,故意責任の本質は,規範に直面し,反対動機を形成しえたのに,あえて犯行を行った反規範的人格態度にあるところ,人には「人」を殺してはならないという規範が与えられているのであって,Aという「人」を殺そうと思った以上,殺人の故意は「人」であるBに対しても認められる,と説明されます。

ちなみに,このように考える説のことを,法定的符合説と言います。
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by ofuna-law-02 | 2008-11-27 22:44 | 刑法

刑法の思考パターン

犯罪とは,構成要件に該当し,違法,かつ,有責の行為を言います。

構成要件とは,一般に言う法律要件のことで,~罪として条文に書いてあって,それを主体,客体,行為,結果等に分類しうる要件事実のことです。
例えば,殺人罪の構成要件は,「人」という客体を「殺す」という行為をすることです。
この殺人罪の構成要件の解釈上の問題点としては,例えば,胎児は「人」かという問題があったり,例えば,硫黄を投与した行為(硫黄は医学的には少量ならば飲んでも人は死なない)が殺人行為といえるかという問題があったりします。

単純にAさんがBさんを刺殺した場合を想定しますと,これは殺人罪の構成要件に該当します。
とは言っても,まだ殺人罪が成立しません。
最初に定義づけたように,違法で,有責である必要があります。
これは違法性阻却事由がないか,と,責任阻却事由がないかという判断と同義です。

違法性阻却事由とは,刑法35条などに規定されており,正当行為や正当防衛や緊急避難が成立する場合を言います。
例えば,先ほどの想定事例で,実は先にBさんがAさんを殺そうとしてピストルで体に弾を撃っていた,Aさんは,身の危険を避けるため,仕方なくBさんを刺した。と言うような事情があった場合は,正当防衛となり,違法性が阻却され,犯罪不成立になります。

責任阻却事由とは,責任能力,責任故意などがない場合を言います。
例えば,先ほどの想定事例で,Aさんが,認知症で判断能力が全くなかったような場合は,責任能力がなく,責任が阻却され,犯罪不成立になります。

構成要件に該当し,違法性阻却事由がなく,責任阻却事由もないと,犯罪成立となります。

平成21年5月までに裁判員制度がスタートします。
犯罪の成否に関し,裁判員の判断が要求されるのは,以上の3場面です。
すなわち,まずは,構成要件該当性の有無,です。
次に,違法性阻却事由の有無,です。
最後に,責任阻却事由の有無,です。
事案により,構成要件該当性のみが問題となったり,違法性阻却事由が問題になったりすると思います。
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by ofuna-law-02 | 2008-11-27 22:41 | 刑法

ウエーバーの概括的故意

例えば,海辺で首を絞めて人を殺そうとして,ぐったりしたことから,死んだと思って,その場に放置したところ,実はまだ生きており,砂浜の砂を吸引して窒息死したという事例で,犯人に故意が認められるか(思ったとおりに死んでいないことから問題となります)というのがウェーバーの概括的故意の事案です。

因果関係の錯誤等色々な刑法上の論点がからみますが,結論としては,殺人罪を認めるのが通説です。
無難な結論だと思います。
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by ofuna-law-02 | 2008-11-27 19:25 | 刑法

昔は窃盗罪に罰金刑はなかった

今こそ窃盗罪には罰金刑がありますが,以前は,窃盗罪には罰金刑がなかったのをご存じですか?

なぜ罰金刑がなかったのかというと,他人のもの(物)を盗むような人は大抵お金に困って窃盗をすると考えられるのが通常であるので,刑として,お金のない犯人から罰金を取るのは背理であるという考え方が根底にあったからです。

この考え方は,例えば,普通の侵入盗(空き巣)などの場合はあてはまるのですが,下着泥棒などの場合はあてはまりません。下着泥棒などは事案が軽微の場合が多く,懲役刑ではなく,罰金刑を下すのが妥当とも言えます。そのため,窃盗罪ではなく,通常同時に行われる住居侵入罪を捉えて,住居侵入罪には罰金刑があるので,これにより罰金刑に処されるという扱いが実務上なされていたという現状がありました。

しかし,上記の下着泥棒の場合や,他にも,お金はあるのに,ちょっとした出来心から,万引き(これも窃盗です)をしてしまう場合など,直截的に,罰金刑に処した場合が多いことから,現在では,窃盗罪に罰金刑が新設されています。
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by ofuna-law-02 | 2008-11-27 19:23 | 刑法